石井だより
2025年04月01日
連載 家庭医療のお話⑩ 家族志向のケアの4つの原則その4(石井だより4月掲載)
医療者も治療システムの一部であり、適切な関わりを考える必要がある
前回の記事で、患者さん・家族・医療者が治療のパートナーであり、家族の関与が重要であることをお伝えしました。家庭医は、患者さんと家族の調整役を担う一方で、自身の関わり方が患者さんに大きな影響を与えることを常に意識する必要があります。
妻の協力で治療が進むはずだったが…
50代の男性が糖尿病の治療を受けていました。生活習慣の改善が続かず、病状が悪化。そこで医師は、家族の協力を得ようと妻と一緒に受診するよう提案しました。
診察室で妻は開口一番、「この人は自己管理ができません!先生も厳しく言ってください。これからは私が全部管理します!」と発言。医師は「それは心強いですね」と賛同しました。
妻は徹底的に食事を管理し、運動も毎日確認。ところが、数か月後、糖尿病の状態は悪化していました。男性は「妻に言われるまま生活していて、何をすればいいかわからない」と話しました。
医師は気づきました。妻が熱心に管理するほど、患者さんは「自分の病気は妻が管理するもの」と捉え、自主性を失ってしまったのです。「家族の協力は大切」と考え妻の関わりを推奨していた医師の行動は、今はむしろ逆効果になっていました。
調整役としての関わり方を見直す
そこで医師は関わり方を変更。まず、患者さん自身が「できそう」と思うことを尋ね、同席する妻に聞いてもらいました。
男性は「朝食をしっかり摂り、昼食を減らす」「夕食後5分だけ歩く」と決めました。妻は「たった5分?15分は歩かないと!」と口を挟みましたが、医師は「管理ではなくサポートを」と助言。「本人がやろうとすることを、そっと応援する距離感が長続きしますね」と伝えました。
方針転換後、患者さんは自己管理の意識を取り戻し、病状も改善しました。
このように、医師の関わり方一つで、患者と家族の関係や治療の結果が大きく変わります。家族志向のケアを行う際は、その影響を十分考慮することが大切です。