石井だより

2024年10月01日

連載「家庭医療のお話⑤ 全人的に理解する」(石井だより10月掲載)

 前回、患者さんを診察する時、「疾患」「病い」「健康観」の3つの側面に注目していることを書きました。さらに患者さん一人ひとりに合わせた治療を行うために、総合的・全人的に理解していきます。全人的理解のためには、患者さん個人だけでなく、患者さんを取り巻く”コンテクスト”に注目しています。

 コンテクストは直訳すると「文脈」ですが、家庭医療学の中では患者さんそれぞれの持つ背景のことを指します。これらのコンテクストを知ることで、患者さんごとの事情に合わせた治療や提案を考えることができます。

 

●個人

・その人の疾患・病い・健康観、信仰、人格や性格、家族ライフサイクル

●近位コンテクスト

・家族、住んでいる場所、経済状態、受けてきた教育、仕事、趣味、受けている介護福祉サポートなど

●遠位コンテクスト

・その人の住む地域、文化、社会的な歴史、地理、メディア、気候、医療保険制度

 

  例えば、ある病気の治療で、1日のうち3回決まった時間に飲まないといけない薬があるとします。仕事をせずに家でのんびり過ごすAさんは問題なく飲めるけど、毎日仕事で忙しいBさんは飲むのが大変かもしれません。Bさんの仕事の内容によっては仕事を休まない限り飲めないかもしれません。近位コンテクストである「仕事」を考慮して薬を使い分けたりしています。

 

一見病気とは関係のないような事も、それぞれの患者さんの背景(コンテクスト)はとても大切です。一人ひとりに合わせた治療をするために皆さんのお話を聞かせてください。