石井だより
2024年09月01日
連載「家庭医療のお話④ 病気を形作る3つの側面」(石井だより9月掲載)
家庭医は、患者さんを診る際に「疾患」「病い」「健康観」の3つの側面に注目しています。
1. 「疾患」:医師から見た病気
医学的に診断された病気のことです。これは、症状や検査結果に基づいて医師が判断するもので、客観的なデータが重視されます。
2. 「病い」:患者さんから見た病気
患者さんが実際に感じている苦痛や不安、生活への影響を指します。患者さんの主観的な訴えが重視されます。
3. 「健康観」:患者さんにとっての健康な状態
患者さんが考える健康な状態を指します。これは、個々の価値観やライフスタイル、文化的背景によって異なります。
実際の例をご紹介します。
30歳代の女性が「声が出しにくい」と受診しました。しかし症状はとても軽度です。咳もないし声もきれいに出ています。診察の結果「軽度の急性咽頭炎」つまり軽い風邪と診断しました(疾患)。
風邪の治療は症状を和らげる薬を使いながら自然に治癒するのを待ちます。
しかし、患者さんはどうしても納得出来ない様子でした。理由を尋ねると「実はラジオのアナウンサーをしている。通常の会話なら全然問題ないが、長い原稿を読んでいると、途中で必ず咳払いが出てしまう。アナウンサーにとってこれは致命的なんです。」との事でした。つまり患者さんにとっては「ただの風邪」ではなく「原稿を読む事が出来ない重症状態」だったのです(病い)。
そして患者さんにとっての健康は、「仕事がちゃんとできている」という事も分かりました。
この事を聞いた僕は、患者さんに十分説明したうえで、普段の診療では風邪に対してあまり処方しない薬を選択し、患者さんは大変喜んでくれました。
まとめ
医療は単なる「疾患」の治療だけではなく、患者さんの「病い」を見つめ、患者さんがより良い健康を実現できるようサポートすることです。 家庭医は、これら3つの側面をバランスよく考慮しながら患者さんにとって最も適切な治療やサポートを心がけています。