石井だより

2024年07月01日

連載「家庭医療のお話③ 生物心理社会モデルの具体ケース」(石井だより7月掲載)

 前回紹介した「生物心理社会モデル」の具体的な例として、岡山の診療所で働いている時に私が経験したケースを紹介します。(一部変えています)

 

 ある日役場職員から、「もともと目が見えないが慣れた自宅では手探りでなんとか生活していた一人暮らしの80歳代の男性が、自宅で寝たきりになっている。病院に連れて行こうとしても暴れて断固拒否して困っている」と往診の依頼がありました。

 

 3年前に奥さんを病気で亡くし、以来一人暮らしで身寄りなし。目が見えず認知症もあり、近所の友人が買い物など支援してくれていたが、その友人が最近体調を崩して来れなくなり、食べ物も届かずどんどん体が弱ってきてしまったとの事でした。

 さっそく往診して血液検査などしましたが、脱水以外に大きな異常はありませんでした。役場職員は何とか本人を説得して入院させようとしていましたが、本人は「妻が心配するからここを離れるわけにはいかん」と言い、思い出深い自宅から離れたくないというはっきりした意思を持っていました。

 

 生物医学的に考えるなら問題は「脱水」です。役場職員の言うように救急車を呼んで入院してもらうなど、点滴治療をすれば身体はもとに戻るでしょう。でもこれでは本質的な解決になるでしょうか?

 生物心理社会面を考えると、「本人は自宅を離れたくないと強く希望している(心理面)が、頼みの友人が来れなくなり(社会面)、その結果脱水に陥ってしまった(身体面)」状態だと考えました。つまり解決すべき根本的で大切な問題は「社会的側面」です。

 

 そこで、役場職員といっしょに、ヘルパー、民生委員、訪問看護などに声をかけて集まってもらい本人の生活を支えるチームを作ることで、本人の望む自宅で安全に過ごすことが出来るようになりました。

 

このように、健康問題を解決するために総合的に考えてアプローチする考え方が生物心理社会モデルなのです。